構造理解なしの解体が招くリスク
解体現場で一番よく聞く声かけのひとつ。
「この壁、壊しても大丈夫ですか?」
それはただの確認ではなく、“現場を守るための最重要判断”でもあります。
見た目はどれも同じように見える壁や天井ですが、
その中には建物の構造上、絶対に壊してはいけないものが潜んでいます。
今回は、構造理解がないまま行う解体工事が招くトラブルや損害、そして正しい対応方法をお伝えします。
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■ 解体で“壊してはいけない”場所とは?
【1】構造躯体(コンクリート・鉄骨の柱・梁)
• 建物を支える柱や梁、コンクリートの壁は建物全体の安定性に関わる重要部位
• 間違って削っただけで耐震性能が損なわれる可能性も
【2】界壁(かいへき)
• 隣のテナントや部屋との境界をなす防音・防火・耐震性能のある壁
• 賃貸契約上「撤去禁止」とされていることも多い
【3】耐火壁(たいかへき)
• 消防法に基づき、火の広がりを防ぐ目的で設置された壁
• 撤去には建築基準法上の制限や届出が必要
【4】配管・電線が埋まっている壁や床**
• 水道・電気・ガスが通っている場合、破損=漏水・火災・事故のリスク
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■ 構造理解なしの解体で実際に起きたトラブル
【ケース1】界壁を撤去してしまい、隣室に騒音が漏れる
→ オーナーから再施工を命じられ、全額自己負担で壁を再設置。工事が遅延。
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【ケース2】RC壁を想定せず重機で斫り、配筋を破損
→ 建物の耐震性に影響し、補強工事が必要に。追加費用150万円以上。
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【ケース3】給水管が入っている間仕切り壁をカット
→ 配管を破損し、ビル全体の水が止まる緊急事態に。修理+謝罪対応。
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■ なぜ“誤解体”は起こるのか?
• 設計図が現場と違っている(増設・改装の履歴が不明)
• 調査不足(非破壊調査をしていない)
• 現場経験が浅い作業員だけで作業開始
• 構造・法令の基礎知識がないまま「壊してOK」の指示を出す
→ 解体は「壊せば終わり」ではなく、「壊してはいけないものを見極める」技術が求められる仕事。
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■ プロが必ず行う「構造チェック」3つの基本
- 建築図面・契約書の確認
・「どこまで壊していいのか」が書かれているか?
・構造壁の有無、設備の配置、施工履歴も含めて確認。 - 現地調査と壁の構造判定
・叩いて音を聞く、目地やビスで材質を判断する、非破壊検査器具を使う
・天井裏・壁裏の配線や管の有無を事前に確認。 - 管理会社・設計士との情報共有
・「ここ、壊していいですか?」とプロ同士で確認しあう文化が、安全な現場をつくる。
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■ まとめ:「何を壊すか」より、「何を壊さないか」がプロの仕事
解体工事は、ただ力任せに壊せばいいわけではありません。
“どこまで壊していいのか”“どこは絶対に壊してはいけないのか”
この見極めが、現場の安全・建物の価値・信頼関係を守る最大の要です。
壊すことは簡単。
でも、壊さない“判断力”と“知識”こそが、プロとしての矜持です。